2014年4月6日日曜日

現在進行形の文化を感じられる酒場

銀座8丁目にお店を構える月光荘画材店は、大正6年(1917年)に創業、来る2017年に100周年を迎えます。

「大空の月の中より君来しや
      ひるも光りぬ夜も光りぬ」


創業者・橋本兵藏を可愛がった歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻が、そう詠んで名付けたのが店名「月光荘」の由来。当時の文化人たちが与謝野さんのご自宅に夜な夜な集まって自由な議論を交わすサロンから、月光荘は出発しました。

そんな月光荘が、長きに渡って銀座の街に育ててもらった恩返しにと、お店の出発点でもあるサロンを2013年12月20日、銀座のビルの屋上にオープンしました。

月光荘のはなれだから、店名は「月のはなれ」。月の文字は、与謝野晶子さん直筆の書体です。

一番の特徴は、現在進行形の文化を肌で感じることのできる酒場とのこと。その真意を伺うべく、「月のはなれ」の店主にインタビューしました。

店主は大学を卒業するとすぐに渡米し、シカゴでミュージシャンとして生活を始めます。シカゴでの活動を通じて、生音楽を日常生活の中に存分に取り入れて楽しむ文化に深く感銘を受けたと言います。日本のライブハウスの雰囲気と異なり、シカゴの音楽は生活を営んでいる人々のために在る、その場所でしか生まれない躍動感溢れる音楽でした。 大人たちは一切の肩書を忘れて肩を並べて語らい、演奏家はお客の温度やその場の空気を一瞬でつかんで音を吐き出してゆく……。「文化はエネルギッシュな場所でこそ生まれるのだ」と知ったといいます。

帰国後、店主は家業である月光荘の仕事を手伝っていく中で、創業時代の写真にギター、アコーディオン、サックス等の楽器をお店で演奏しながら、その周りを囲む人々がすごく楽しそうに過ごしている一枚に出会います。月光荘は絵描きのための画材店という機能だけではなく、かつては音楽も自由に鳴り響いていたお店だったことを知りました。「月光荘サロン・月のはなれ」の目指す、音楽を身近に楽しんでいく空気の原型は、実は約100年前にすでにこの月光荘に存在していました。そんなおおらかで刺激溢れる雰囲気をもう一度平成の世に。それも銀座から発信していきたい。そんな思いで月のはなれは運営されています。

また「月のはなれ」では音楽だけではなく、絵も楽しむことができます。作品が壁一面に飾られていますが、これらは鑑賞するだけでなく、気に入ればどれでも購入できるのです。 日本では人気のある展覧会に多くの人が殺到して、カタログが売り切れるなど絵画に興味を持っている人は大勢いますが、日常生活の中で絵を買う機会は残念ながらほとんどありません。「あ、いいな。」と思ったらすぐに「これ下さい。」と気軽に購入できる下地があって初めて、絵が本当の意味で生活に根付いていくことになるのだと店主は言います。

また絵には、観賞したり購入するだけでなく、描くという楽しみもあります。しかしながら学生時代以降に、絵の具に触れたり絵を描く機会を持ってる人などほとんどいないのが現状です。それは本当にもったいないこと。どんな子供でも、画材を渡すだけで喜んで絵を描き始めます。本来それは根源的な楽しさなのです。

「月のはなれ」ではメニューの中に、「水彩画セット」(500円)というものがあり、注文すると月光荘のスケッチブック1冊と絵の具・パレット・筆がでてきて、お酒を飲みながら音楽を聴きながら、その場で自由に絵を描くことができます。音感と色感は一生の宝物。お酒の力を少し借りて、童心に返って絵で遊んでみませんか。

音楽を通じて、絵を通じて、横一線に豊かに語らい、文化の花を咲かせる空間、それが「月のはなれ」。 次の時代の東京の文化は、こうした場所から生まれていくことになるのでしょう。


月光荘サロン 月のはなれ
東京都中央区銀座8-7-18 月光荘ビル5
銀座駅より徒歩8
Tell03-6228-5189
平日 14002400(2300L.O)
土・日・祝日は貸し切り営業のみ

(取材:山口明日香、中川聖子、中村真子)